2012年1月24日火曜日

時間はどこで生まれるのか


今回、紹介する本は
『時間はどこで生まれるのか』 橋本淳一郎著 集英社新書 2006年発行
です。

時間はどこで生まれるのか? タイトルに惹かれてこの本を手に取り、目次を見た。
  • 第3章 量子論における時間の非実在性
  • 第5章 マクロの世界を支配するエントロピーの法則
量子論やエントロピーの法則を通して、時間を分かりやすく説明する本と思っていたら、
  • 第6章 主観的時間の創造
  • 第7章 時間の創造は宇宙の創造である
何やら哲学的なにおい! 自分では想像できない何かが書かれている予感を感じ購入した。


第5章までは、現代物理学から見た時間論。ここまでの内容でも、日常の時間概念とかけ離れたことが分かりやすく書かれており、刺激的だ。



筆者は「相対性理論」上の時間の概念をグラフを使って、わかりやすく説明している。



図1は2次元空間を表している。
点Aが自宅、点Bをレストランとする。

図2は、この図に時間軸を加えたもので、「時空図」という。
この場合、点Aは正午0時に自宅を出て、午後1時にレストランに到着するということを表している。
時空図では、その中の一点を「事象」(点Aや点B)といい、ある事象と別のある事象を結んた線を「世界線」という。




図3は時空図に光の世界線を表したものである。
常識では現在を境にして過去と未来しかないが、相対性理論では、光の世界線を境にした、「非因果的領域」が現れる。非因果的領域は、光速を超えないと入れない。また、現在と因果関係を持つことができない。
日常生活においては、光速に近い速度を出すことはないため、「非因果的領域」に気づくことはない。
(図3で、空間軸xの尺度を日常生活レベル(例えば1秒に対して1m)にすれば、「非因果的領域」は限りなく空間軸xにはりついたかたちになる)

図4は、時速100kmで走る車αと並行して時速70kmで走る車βを表している。
日常生活レベルでは、βから見たαの速度は時速30㎞に見える。


しかし、光速に近い速度の場合、図5のように、時間軸が傾くと空間軸も光の世界線を中心として同じように傾く。

したがって、図6の場合、私にとって、事象Aは現在だが、αにとっては過去、βにとっては未来となる。

結論:相対性理論では、他者と共通の「今」はなく、人間的時間と物理的時間は別物



続いて「量子力学」から時間を説明している。

図7は、電子と陽電子(反粒子)が衝突してガンマ線(光子)が乗じたことを表している。
  • 原因:電子と陽電子の衝突
  • 結果:ガンマ線の発生
陽電子とは、電子と全く同じ性質をもった粒子で、その電荷だけがふつうの電子のマイナスと反対のプラスである粒子(反粒子)。
反粒子は、未来から過去に向かって進む粒子。
したがって、図7の現象は、図8のように、「電子が未来からのガンマ線と衝突し、過去に向きを変えて進み始めた」とも解釈できる。
  • 原因:電子とガンマ線の衝突
  • 結果:電子の過去への反跳
図7と図8は同じ現象であるが、原因と結果がことなって解釈されている。
結論:量子力学においては、日常の因果関係は成立しない

さらにファイマン図形を使ってミクロな現象を表すと、

図aでは横軸を空間、縦軸を時間にとっている。
ここでの素粒子反応の解釈は、「粒子Aと粒子Bが近づいて、光子を交換した後、それぞれ向きを変えてはなれていった」といえる。

図bは横軸と縦軸が入れ替わっている。
この場合の解釈は「粒子Aと反粒子Aが衝突して対消滅し、光子が発生し、その光子がある時点で、粒子Bと反粒子Bを対創生した」となる。

結論:ミクロな世界では時間と空間の区別に意味がない
   ⇒ミクロな世界を扱う物理学において、時間の概念は必要ない


問題は第6章以降。通常物理学では出てこない「意志」「生命」といった言葉を使い、「時間の創造」、「宇宙の創造」を語っている。

当初、私は、時間の概念は、エントロピーの法則から生まれたものと思って、読み進めていた。しかし、違っていた。
秩序そのものである「生命」による「意志」が時間を創造していると筆者は結論づけている。


この本は、これまで読んだことのない現代物理学と哲学の間のテーマを扱っており、私に強い印象を与えた。

著者が望んでいるように、この本が呼び水となり、現代物理学を踏まえた上での哲学的時間論(時空論)が出てきてほしい。

相対性理論、量子論に興味のある方、お薦めです。
哲学に興味のある方、読んでほしい本です。
両方に興味のある方、目からウロコが落ちます。かなりお薦めです。

最後に著者の紹介をします。
著者: 橋本淳一郎
1947年3月1日 大阪生まれ。京都大学理学部物理学科卒業・同大学院理学研究科修士課程修了。現在、相愛大学人文学部教授。日本SF作家クラブ会員・日本文藝家協会会員・ハードSF研究所所員。SF作家であると同時に、受験生には物理のハッシー君として有名。2004年4月より、「スカイパーフェクトTV」東進ハイスクールにて、『物理・橋元流解法の大原則』の解説講座開講中。(橋本淳一郎ホームページより)


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