『生物と無生物のあいだ』 福岡伸一著 講談社現代新書 2007年発行
です。2007年に第29回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)、2008年に第1回新書大賞をそれぞれ受賞しています。
この本は、生物とは何か?という問いに著者自身の答えを出しています。その答え自身は、著者が始めて提唱したものではないようですが、一般の人は初めて知る話だと思います。
著者の答えは
生物とは「自己複製」と「動的平衡」をするもの
- 「自己複製」とは、自分の分身をつくること
- 「動的並行」とは、食事と排泄を繰り返し、体内の分子を常に新しいものに置き換えることであり、食事は、車のガソリンのように、単なるエネルギーではない
本の内容は、バラエティに富んでいます。
野口英世、ジェーム・スワトソン、フランシス・クリック、モーリス・ウィルキンズといった著名な科学者に対し、著者は大変辛口の評価をしています。また、オズワルド・エイブリ―、キャリー・マリス、ロザリンド・フランクリンに対してはもっと評価をされてしかるべき、と主張しています。このような話は、科学史や科学者の仕事に関心がある方にとっては、興味深いと思いますが、純粋に科学の話が知りたい読者にとっては、読み飛ばしたいと思われるかも知れません。
また、著者が自身の職場を回想するシーンは、科学の本とは思えないほど、抒情たっぷりに描かれています。これは、生物学者である著者の特筆すべき能力です。このことは、目次を見ただけでも伺い知ることができるので紹介しておきます。
- 第1章 ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
- 第2章 アンサング・ヒーロー
- 第3章 フォー・レター・ワード
- 第4章 シャルガフのパズル
- 第5章 サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ
- 第6章 ダークサイド・オブ・DNA
- 第7章 チャンスは、準備された心に降り立つ
- 第8章 原子が秩序を生み出すとき
- 第9章 動的平衡とは何か
- 第10章 タンパク質のかすかな口づけ
- 第11章 内部の内部が外部である
- 第12章 細胞膜のダイナミズム
- 第13章 膜にかたちを与えるもの
- 第14章 数・タイミング・ノックアウト
- 第15章 時間という名の解けない折り紙
私が気に入ったエピソードをひとつ紹介します。
「第8章 原子が秩序を生み出すとき」の中で、アインシュタインと並んで20世紀最高の物理学者であるシュレーデンガーの著書『生命とは何か』について説明しているくだりです。
シュレーディンガーは物理学者らいし考察で、原子の大きさに対して、生物の大きさがどのように決まっているのかを説明しています。
原子が少ない状態では原子ひとつひとつがそれぞれバラバラに動いており、秩序ある振る舞いをしない。しかし、原子が十分に多い場合は、平均的な振舞いをするため、高度な秩序を必要とする生物になりうる。という話です。
最後に著者の紹介をします。
生物学者・青山学院大学教授。1959年東京生まれ。京都大学農学部卒。研究のかたわら、「生命とは何か」を分かりやすく解説した著作を数多く著す。ベストセラー『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』ほか、著書多数。・・・福岡伸一オフィシャルブログ「福岡ハカセのささやかな言葉」より
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